魔法が解けた王子は

「レイコ」

 

林檎に刻まれたそのたった3文字で今までの数年に渡り抱えてきた気持ちはいとも簡単に崩れたのであった。

たった3文字、されど3文字である。

なんだかんだずっと好きだと思っていた。

人も気持ちも世界も変化を続けるものである。

これは私だけに言える話ではでない。

 

彼は死んでいた。

アイドルとしての彼はとうに死んでいた。

私は既に無いものを生きていると信じ続けていたのである。居ない現実に目を背けて妄信的に彼の影を探していた。だからだろう、目を覚ますのが遅くなってしまった。滑稽な話である。

 

私が好きだと信じていた人間性はほんの1部でしかなく、背景にはもっと黒く、暗く、濁った暗闇があった。そんなことは知らずにステージ上の彼だけを消費していただけであった。ギラギラしているものは美しいと。

 

私は彼を好いていた。

彼の歌が好きだった。力強いのに繊細で、真っ直ぐな歌が好きだった。

彼の言葉が好きだった。気持ちを全力投球したような刺さる言葉が好きだった。

アイドルを辞めて1人のアーティストになっても、彼は変わらなかったはずである。

アイドルとしての魔法が解けた時、普段は魔法の力で見えなかったものが見えやすくなってしまった。私はそれを受け入れることが出来なかった。ただそれだけの話だ。

私たちはどこで道を外してしまったのだろう。もう一生交わらなくなってしまった。

 

アイドルを舐めるな。

魔法が解けた後もそう発言していた彼がとても愛おしかった。

しかしどうやら今では過去の魔法が現在では呪縛になっているらしい。

過去の栄光を語ったものを遮断しているとかいないとか、風の噂で聞いただけだからもしかしたら嘘かもしれない。

 

魔法を解かなければ叶えられたものも、失わなかったものも、夢の大きさも違っただろうな、

それを承知で旅に出たはずなのに、今更過去自分がかけた呪いに苦しんでいるなんて。

想像できていたんじゃないの?と言いたいのは置いておいて。

もし彼が今の道を選んでまでしたかったことが現状だと言うのなら私は彼を殴らないと気が済まないかもしれない。

私の青春も大きな夢も何もかも奪っておいて。

 

レイコと"滞納"、お幸せにね。